この記事のポイント
アニメ映像の無断使用は原則として著作権侵害
→ただし、著作権法第32条第1項「引用」の4つの要件を満たせば適法
1. 公表された著作物であること
2.引用されていること
3.公正な慣行に合致するものであること
4.正当な範囲内で行われること
→アニメリアクション動画は、「引用」の要件を満たすよう注意すれば、適法となる可能性が高い
そもそも「アニメリアクション動画」って何?
YouTube上で人気を博しているジャンルの一つに、「アニメリアクション動画」があります。
アニメリアクション動画とは、主に海外の「リアクター」と呼ばれる人々が日本のアニメを観て、それに対する感想や批評を加えるコンテンツです。
視聴者は、リアクション動画を観てリアクターの反応を楽しんだり、ときには一人で観ている時には気づかなかった作品の面白さに気づくことができます。
↓アニメリアクション動画の一例↓
現在では、アニメリアクション動画に日本語字幕を付けて日本人向けに公開する「翻訳チャンネル」「海外の反応まとめチャンネル」なるものも登場し、アニメリアクション業界は活況を呈しています。
ただ、ここで一つ疑問が生じます。
アニメリアクション動画では、アニメの映像や音楽が使用されています。
当然ほとんどのリアクターは、アニメ製作側からコンテンツの使用許可を得ているわけではありませんので、「他者の著作物を無断で使用している=著作権侵害」と思う方も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事では、YouTubeのアニメリアクション動画及びその翻訳動画の、著作権法上の扱いについて解説していきます。
著作権法とは?
著作権法では、第一条に法律の目的が定められています。
(目的)第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
e-GOV 法令検索
簡単にまとめると、著作権法の目的は、著作権等の権利を保護することにより、文化の発展に寄与すること、と言うことができます。
アニメリアクション動画は著作権侵害と言えるか?
アニメリアクション動画内で使用されるアニメの映像や音楽は、ほとんどのケースで著作権法によって保護される、著作物であると考えられます。
したがって、リアクション動画内で、権利者に無断でアニメ映像を使用してしまうと、原則として著作権侵害となります。
ただし、特定のケースでは、著作権侵害と判断されないケースがあります。
そこで、ここからは、著作権侵害と判断されない要件を紹介していきます。
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「引用」と評価できる場合
著作権法では、権利者(=アニメ製作側)に無断で、著作物(=アニメ映像)を使用した場合でも、著作権侵害とはならずに使用できるケースが規定されています。
具体的には、著作権法の第30条〜第47条8で規定されています。
アニメリアクション動画との関係で重要になってくるのは、第32条1項の、「引用」と評価することができるかどうかというポイントです。
(引用)第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
e-GOV 法令検索
この条文を簡単にまとめると、
引用として認められるためには、以下の4つの要件を満たす必要があるということになります。
- 公表された著作物であること(公表要件)
- 引用されていること(引用要件)
- 公正な慣行に合致するものであること(公正慣行要件)
- 正当な範囲内で行われること(正当範囲要件)
公表要件
引用される著作物は、公表された著作物である必要があります。
リアクション動画内で使われているアニメ映像は、もちろん世間に発表されているものであるため、公表要件を満たすと考えられます。
例えば、『進撃の巨人』は地上波放送や動画配信サービスを通じて、公表された後にリアクション動画が作られているので、公表要件を満たします。
2.引用要件
「引用」の定義は著作権法上にはありませんが、裁判所では次の2つの条件を満たすことが必要とされています。
明瞭区分性〜引用部分は他の部分と区別されている〜
著作物が引用されている部分とそれ以外の部分が、明瞭に区別されている必要があります。
利用する側の表現と、利用される側の著作物とが渾然一体となって全く区別されず、
それぞれ別の者により表現されたことを認識し得ないようなときには引用にはなりません。
リアクション動画では、利用する側の「リアクター」と、利用される側の「アニメ映像・音楽」が視覚・聴覚によって区別することが可能です。
そのため、明瞭区分性を満たしていると考えられます。
主従関係〜自分のコンテンツが「主」、引用部分は「従」である〜
引用はあくまでも補足的情報で、主となる内容は自分のオリジナルなものであることが求められます。また、量と質の両面から、どちらが主なのかが判断されます。
リアクション動画では、
- 引用されているアニメ映像がワイプで小さく映されている
- 動画内で使用されているのはアニメ1話分の半分以下の映像である
などの点から、あくまでもリアクションがメインとなっています。
この「主従関係」についてはリアクターごとに工夫の違いが見られる部分です。
例えば、人気リアクターのSemblance of Sanityは、
「アニメ映像+リアクション映像」→「リアクション映像のみ」の流れが、リアクション動画内で繰り返されます。
文章では伝えにくい部分ですので、気になる方は実際の動画をご覧ください。
このような動画の組み立て方であれば、「引用元であるアニメへのリアクションがコンテンツの中心である」と言えるのではないでしょうか。
3.公正慣行要件
公正慣行要件については、ケース毎に判断されることになり、一概にいうことはできませんが、裁判例では、「出所の明示があるか否か」が判断されるようなケースがあります。
リアクション動画では、タイトルやサムネイルに「どのアニメの何話なのか」が記載されているため、要件を満たしていると考えられます。
概要欄に引用元を記載しておくと、なお良いと思います。
4.正当範囲要件
この要件を満たすためには、コンテンツが引用の目的上、正当な範囲である必要があります。
例えば、リアクション動画と見せかけて、リアクション動画内で使用されるアニメ映像のアップロードが目的となっているケースでは、正当範囲要件を満たさないと判断される可能性があります。
また、この要件では、著作権者への経済的な影響の有無などの事情も考慮されます。
法律の条文には、引用の分量についての具体的な数字はありませんが、「リアクション動画を見て引用元のアニメを観た気分になってしまう」ようなリアクション動画では、アニメ製作側に対して迷惑をかけることになります。
そのため、多くのリアクション動画では、
- アニメ映像の使用は全体の半分以下にする
- モザイクや透かしを入れてアニメコンテンツを見づらくする
- 音声をミュートにする
- 別の音楽を流す
などの工夫をして、著作物への配慮がされています。
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結局、リアクション動画は著作権侵害なのか?
ここまで読んだ方はお分かりだと思いますが、
アニメリアクション動画は、引用の4要件を満たしていれば適法となり、著作権侵害にはならない
ということがわかります。
ただし、それは裏を返すと、リアクション動画が引用の4要件のいずれかを満たしていない場合、他者の著作物を無断で使用していることになり、著作権侵害となってしまうということを意味します。
アニメリアクション動画において、1.公表要件、3.公正慣行要件については問題なく満たしていると考えられますが、
著作権侵害かどうかの判断は、「2.引用要件」と「4.正当範囲要件」の捉え方次第で変わってくる
と考えられます。
2.引用要件では、自身のコンテンツが「主」、引用元が「従」となる必要があります。
アニメリアクション動画はあくまでリアクションが中心ではあるものの、アニメ映像がなければ成り立たないコンテンツです。
また、視聴者はリアクション動画内にアニメ映像や音楽があるからこそ、楽しめているという面も見逃せません。
そして最大の争点となるのは、
4.正当範囲要件、つまり「アニメ製作側への経済的影響があるかどうか」
というポイントになると考えられます。
(追記)
平成12年、著作物<脱ゴーマニズム宣言>の控訴審判決では、引用が認められています。
まとめ〜アニメリアクション動画の未来〜
さて、アニメリアクションチャンネルの著作権問題について、お分かりいただけたでしょうか。
他者のコンテンツを利用するということで、著作権侵害のリスクは常にあります。
しかしながら、引用の要件を満たすリアクション動画を作っていけば、適法な状態でチャンネルを運営することができる、ということですね。
実際に翻訳チャンネルを運営している私自身、視聴者から「これって訴えられたら一発アウトですよね」「グレーゾーンのことなんてやめればいいのに」といった声をいただくことがあります。
そういった方に、一つだけお伝えしたいことがあります。
著作権法の目的は、「著作権等の権利を保護することにより文化の発展に寄与すること」と前述しましたが、世の中には、アニメリアクション動画をひとつの「文化」と見なす人がいるということです。
リアクション動画を観て一緒に笑い、楽しみ、そしてときにはリアクターと共に涙を流す。リアクターの言葉で、そのアニメの新たな面白さを見つける。リアクターを中心としたコミュニティの中で、アニメについて議論を交わす。
その全てがリアクターファンにとって、一つの文化になっています。
だからこそ、著作権侵害のリスクと隣り合わせだとしても、アニメリアクターは動画を出し続けますし、私も翻訳チャンネルの運営を続けて行きます。
ただし、その過程でアニメ製作側に迷惑をかけることはあってはならないと思っています。
この記事が、アニメリアクターとアニメ製作側、そしてアニメファンが笑顔で居られる世界を作る一助になれば幸いです。
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【参考文献】
『引用がNGとされる「著作権法」の事例について(動画編)』弁護士法人 モノリス法律事務所
『著作権法の引用とは?適法に行うための4要件を解説』弁護士法人 モノリス法律事務所
『YouTubeで人気のリアクション動画の法的問題点 著作権違反にならないのか』弁護士法人 モノリス法律事務所
『著作権侵害に対する罰則は?違反に対する民事上の4つの責任を解説!』TOP COURT INTERNATIONAL LAW FIRM
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